施設向け事例紹介

インタビュー実施時期:2019.10

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『ルナルナ』ピルモード 監修医インタビュー
ピル服支援プロジェクトを通して、女性が自らの性に誇りを持てる世の中に

東京都
東京大学医学部附属病院 産婦人科 准教授 甲賀 かをり 先生

1996年 千葉大学卒業 
1996年 東京大学医学部付属病院、三井記念病院、国立霞ヶ浦病院にて研修
2003年 東京大学大学院修了、武蔵野赤十字病院医員
2004年 東京大学助手
2006年 プリンスヘンリー研究所・イエール大学留学
2013年 東京大学医学部 講師
2014年 東京大学大学院 准教授

医師の写真

多くの女性にとって身近な疾患として知られる「月経困難症」の治療に効果的な、低用量ピルの服薬をサポートするために、『ルナルナ』は「ピル服薬支援プロジェクト」をスタートさせ、プロジェクトの第1弾として「ピル(OC/LEP)モード」を追加し、提供を開始しました。 今回は、本プロジェクトの監修医であり、長年医師としてピルと向き合ってきた、東京大学医学部附属病院 産婦人科 准教授の甲賀先生のインタビューをお届けします。

長年月経困難症の治療と啓発に携わってきた医師として、患者と医師、それぞれが感じている“ピルへのハードル”を低くしたい

日本では低用量ピルが世の中に出たばかりの頃、私は研修医を経て大学院で子宮内膜症に関する研究をしていました。 海外では既に子宮内膜症や月経困難症に低用量ピルが効果的だと論文などで証明されていたため、そのような疾患で来院する患者さんには十分に説明を行ったうえで、希望する人へ当時は適応外使用だった低用量ピルを処方するという時代が10年ほど続きました。 その後、時代の波もありピルも段々と世の中に広がり始め、月経困難症や子宮内膜症に関する啓発など、社会的な活動に参加する機会も頂きながらここまで来ましたが、やはりピルの処方、服薬には医師側にも患者さん側にもいくつものハードルがあることを実感しています。
どのような薬剤でもそうですが、低用量ピルにもベネフィットとリスクはどちらも存在しているので、医師の中には患者さんが想定外の副作用で苦しむことを懸念している先生も多いと思います。そのため、患者さんへの薬剤の説明のコツや、医師側が抱える懸念を克服していくためのヒントを提供することで 先生方のハードルを下げるお手伝いができないかと常々考えています。また、産婦人科医と言っても専門領域は様々でピルの啓発に関する取り組みがまだまだ届いていない先生もいますので、もっと声掛けを強化していきたいですね。
患者さんは、病院を受診するまでにハードルを感じるケースが多いです。日常的に月経痛を抱えている人は多いですが、その状態が当たり前になってしまいつつある中で月経痛を病気と疑って婦人科を受診することは簡単ではないと思います。 また、いざ婦人科を受診してピルの選択肢を提示されても、薬剤についての正しい知識がなければ、“ピル=避妊”だとか、“性に奔放な女性が飲む薬”というイメージだけが先行してしまったり、保護者からの制止によって薬を受け取れなかったり、「服薬を決断する」というハードルがあります。 そして最後に、服薬をきちんと継続する段階でつまづく人も多いですね。飲み始めの初期に起こりやすい吐き気や不正出血、むくみ、血栓への恐怖などから1錠でやめてしまうという患者さんが沢山いるのが現実です。
これらのハードルをなくすためには、それぞれのライフステージに合わせたアプローチが必要です。例えば働いている女性には「月経痛」という症状があったときに堂々と休んで医療機関を受診できる環境整備が大事だと思います。 若年層は情報収集手段がスマートフォンやSNSなどに偏っており、著名人のブログや民間療法のサイトなどに行き着き、その情報をそのまま信じてしまう人があまりにも多いように見受けられます。診察まで遠回りをしないためにも、医学的エビデンスに基づいた記事やサイトにきちんとたどり着くような仕組みや工夫が必要だと考えており、 今回の『ルナルナ』との取り組みもその一環だと捉えています。

産婦人科にとって『ルナルナ』は敵ではなく、手を組むべきパートナー。アプリが臨床現場の新たな発見のきっかけに

私は常々、女性が基礎体温などのヘルスデータを何らかの形で記録しておくことの重要性を患者さんに指導しています。それが習慣づくことで体調の変化や傾向にも自ら気付けるようになり、PMSなどの把握・対処にも効果的ですので、 妊娠希望/避妊希望に関わらず女性にとって必要な行動だと考えています。医師としては、最終的にはどのような対処をすればカラダが楽になるということまで知って欲しいので、広く女性の健康を支援するためにも『ルナルナ』のようなサービスとうまく連携することは有効な手段だと思います。
また、今回の「ピルモード」は医師と患者さんが同じツールで服薬状況を確認できる点が魅力ですね。ピルを服薬したときに生じる副作用などの症状は我々も以前から医師と患者さんそれぞれが保有できるようアナログで管理していましたが、患者さんによって診察時に持参する記録の形式が異なることで、診察時に非常に見づらくなってしまうという課題がありました。 「ピルモード」では、皆さんが同じアプリで記録したものを、「ルナルナ メディコ」を通して医師側のパソコンやタブレット端末などで確認することができる機能が画期的です。医師と患者さんが同じ形式で閲覧できる情報をもとに会話しながら診察ができるのは、患者さんの治療に関する理解の向上にも必ずつながると思います。
アプリが臨床現場へ浸透することで新たな発見が生まれることにも期待しています。例えば特定の薬剤を服薬した際の症状の傾向を複数の患者さんを対象に横断的に統計を取ることも可能になってくるでしょうし、全国のクリニックでの薬剤ごとの利用者数や割合、継続率などを『ルナルナ』がデータとして視覚的にもわかりやすく出してくれれば、クリニックにとって役立つ情報になるはずです。 服薬何日目にどのような症状が出るかという記録を詳細にとっている先生は少ないと思いますので、「ピルモード」を通してそのような情報が蓄積された結果、目の前にいる患者さんは勿論、ほかの次の患者さんに説明する際のエビデンスになったり、医師としての知見となったりしていけば素晴らしいですね。

女性が自らの性を誇りに思える世の中へ

今後は本プロジェクトを通して、アプリの提供にとどまらず患者さんの“モヤモヤ”を晴らせる活動ができればと思っています。既にピルを服薬している人でも、不安に思っていることを医師に相談しきれていなかったり、服薬を継続している効果をもっと知りたかったりと、 “モヤモヤ”を抱えたままの人が沢山いると思っています。それを出来るだけクリアにするために、ピルをモヤモヤしながら服薬している人を集めて薬剤について説明をする場を設けたり、簡単な診察を行うイベントを開催できたりすれば理想的だと考えています。 アプリとリアルな場をうまく使ってお互いを補完しながら、一方的な発信だけではなく双方向のコミュニケーションを実現させたいですね。
また、ピルを飲んでいるということで周りからセクシャルアクティブな女性だと見られてしまうような偏見がまだまだ残っていますが、この風潮は女性が自らの性を誇りに思うことを阻んでしまうもので、医師としては非常に憤りを覚えます。 女性であるからこそ生じるカラダの症状を日常からきちんと意識し、QOLを高めるために自己管理をしている行為が「ふしだら」と思われてしまうような社会は間違っていると思うので、今回のような取り組みを世の中に知らしめることで、月経や基礎体温の管理の延長にピルの管理も抵抗なく語られるような世の中にしていきたいです。
本プロジェクトは、そのような理解の浸透のために役立つはずだと信じていますし、正しい認識を広く伝えていくことは、学術的な面も臨床現場も知る大学病院の医師としての役割だと思っています。

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